臭いが分からなくなる原因としては大きく分けて2つあり、一つは臭いの神経自体がウイルスや加齢により障害されて臭わなくなる場合と、もう一つは慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎があり、臭いの通り道が塞がって臭わなくなる場合があります。他にはその二つが混合している場合や、外傷や血液内の亜鉛が不足してなることもあります。まずは何故臭わなくなったのかを検査して、原因が分かればその治療をすることになります。
検査は、まずは静脈注射でにおいの元を注射して臭うかどうかの検査や、実際に5種類のにおいを嗅いでいただき、臭うかどうかの検査などがあります。他にも、慢性副鼻腔炎が疑われる場合は副鼻腔CT検査、亜鉛が不足しているかどうかは血液検査にて調べます。
そして、原因となっている病気の治療になります。慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎であればその治療、神経自体の障害であればその治療、亜鉛不足であればその治療になります。嗅覚障害の一番有効な治療はステロイドの点鼻薬になります。鼻の穴を天井に向けるように仰け反って点鼻薬を垂らすのですが、喉に多少液が流れ込みます。
慢性副鼻腔炎(蓄膿症)
慢性の細菌感染のために黄色い鼻水がたくさん出てきて、のどにまわると痰が増えてきます。こじれると頬・前頭部・上歯・目の奥・眉間などが痛くなります。さらに悪化すると、副鼻腔の粘膜がポリープ状に腫れて、それが副鼻腔に収まりきれずに鼻腔に出てくると、鼻茸と呼ばれるポリープが充満して、鼻がつまるようになります。長期間、副鼻腔炎が続くと慢性気管支炎、喘息などの呼吸器疾患の原因になります。
検査は、ひどい場合には鼻を見れば分かりますが、軽い場合や重症度をしっかり見るのにはレントゲン検査やCT検査で副鼻腔の陰影をみれば分かります。
鼻茸が大きい場合は、手術になることが多いです。昔は、上の歯肉を切って副鼻腔の手術を行っていましたが、その場合は術後頬が非常に腫れたり、頬のしびれが残ったりと患者様への負担は大きいものでした。現在は内視鏡により、鼻の穴の中から手術が可能となったため、術後頬が腫れたりすることはなくなりました。
鼻茸が小さい場合や、ない場合は内服薬で治るようになってきました。薬はマクロライドという抗生物質を少量で長期間内服するようになります。その他、去痰剤やアレルギー性鼻炎が合併していれば抗アレルギー剤を併用します。
急性増悪のときには頬が痛くなることがあります。かなり痛い場合でも、最近は内服のみで良くなることが多いです。また、妊婦の方や、授乳中で内服をあまりできない方は、鼻を鼻洗浄器で洗い、自宅で出来るネブライザーをお貸しし、治療致します。
デュピクセントについて(鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎について)
副鼻腔炎とは、鼻や副鼻腔(鼻の周囲にある空洞)の粘膜が炎症を起こして腫れた状態のことをいいます。症状が3カ月以上続く場合は「慢性副鼻腔炎」と診断されます。
鼻の症状が続く場合には、日常生活に以下のような支障が出ることもあります。
- 鼻づまりによる睡眠障害、集中力の低下。
- 匂いや味がわかりにくくなり、食品の腐敗や焦げに気づきにくい。
- 味もわからなくなることが多く、何を食べても美味しくない。
- 料理の味付けがわからなくなる。
- 匂いがわからず、ガス漏れや火災などに気づきにくい。
慢性副鼻腔炎のうち、「好酸球」という白血球が多い慢性副鼻腔炎は「好酸球性副鼻腔炎」といわれ、国の難病指定にされています。患者さんのうち10~20%に「鼻茸」が出来ているといわれています。
「鼻茸」とは鼻の内側の粘膜が炎症によって腫れて膨らみ、鼻腔内に垂れ下がったものです。主に鼻の奥、空気の通り道にできるため、鼻詰まりや匂いを感じにくくなる原因になります。「好酸球性副鼻腔炎」では、鼻の両側に鼻茸が出来やすく、手術で取り除いても再発しやすいことが知られています。
治療薬について
鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の治療法の一つに、生物学的製剤(注射薬)を使用する治療法があります。現在当院では、「デュピクセント」という薬を使用した治療を行っています。
デュピクセントについて
免疫細胞から作られる物質であるIL-4(インターロイキン-4)IL-13(インターロイキン-13)の働きを抑え、炎症を抑えます。
期待できる効果
- 鼻茸を小さくする効果
- 鼻づまりを改善する効果
- 鼻水を改善する効果
- 匂いのわかりにくさを改善する効果
- 長期にわたって症状をおさえる効果 など
投与できる方
- 全身性ステロイドなどの薬物療法を実施しても症状が改善しない方
- 長期改善状態を維持できない方
- 手術後に再発した鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の方
投与方法
2週間ごとに1本を皮下投与します。症状が安定した後は、担当医の判断によって、4週間ごとの投与に変更することもあります。また、担当医の判断のもと、患者さんご自身が注射を行う「自己注射」が可能です。
薬剤費の目安
デュピクセントの薬剤費 | ペンの場合 | シリンジの場合 | |
---|---|---|---|
1本 | 1本 | ||
58,775 | 58,593 | ||
自己負担額 (窓口で支払う金額) |
3割 | 17,633 | 17,578 |
2割 | 11,755 | 11,719 | |
1割 | 5,878 | 5,859 |
医療費の助成制度
国や自治体などは、患者さんの医療費の負担を軽くするために、医療費助成制度を定めています。医療費が高額となった場合や、指定難病と診断された場合などに、助成を受けられることがあります。
高額医療制度
1か月の医療費が高額になったときに、自己負担額を一定額にまでおさえることが出来る制度です。負担上限額を超えた分は、加入している医療保険から支給されます。
指定難病に対する医療費助成制度
国が指定している指定難病と診断された場合、その疾患の治療にかかった医療費に対して、助成を受けられる制度です。 「好酸球性副鼻腔炎」は指定難病に指定されているため、デュピクセントを使用している患者さんのうち、「好酸球性副鼻腔炎」と診断されている方は、医療費助成制度を受けられる場合があります。
その他の医療費助成制度
加入している医療保険によっては、独自の「付加給付」として、自己負担上限額がさらに低く設定されている場合もあります。すべての保険者で実施されているわけではないため、詳しくは加入の保険者(健康保険組合など)に確認してください。
大学などの学校では、独自に学生の医療費負担を補助する制度を運営している場合があります。指定病院がある場合や、手続きが必要な場合もあるので、詳しくは学生課などに確認してください。
自治体によっては、ひとり親家庭(母子家庭、父子家庭)の方に医療費助成を行っている場合があります。助成内容や申請方法が自治体により異なるので、詳しくはお住いの市区町村に確認してください。